私はよく嫁に頬ずりのようなことをする。
嫁という対象を、触覚、嗅覚、またその空気感を感覚的に捉えることができる感じがして好きなのである。
もともとどういうふうにしていたか分からなくなってしまっているが、今の形態は、正確に言うと頬ずりとは違っている。
自分のこめかみを、嫁のこめかみにくっつける、というやり方だ。
嫁が、本を読んでいるとき、メモ書きをしているとき、テレビを見ているとき、台所に立っているとき、寝ているとき・・・あらゆる場面で、狙う。
「また来たぁ!」
「やられた!」
「狙われてる…!」
などと言う。
だが、その頻度が多いこともあってか、くっついて行っても反応せず、本を読んでいるときであれば、何事も起こっていないように、本を読み続ける、というようなこともよくある。
台所に立っているときなどは、作業で動かないといけないわけだが、私がこめかみをくっつけている方へも、まるで何もないかのごとく、ぐいっと押し返してくる。
とても邪魔だろうと思うのだが、その押し返される感覚も私にとっては好物なのだ。
ただ、当たり前だが、時にはうっとおしいこともあるようで、顔を近づけると、顔を背けたり、避けたりすることもあるし、押し返してきて、あっち行けというのを示すこともある。
ちょっと前になるが、こめかみへくっついてくる私の対処方法で、別の方法を編み出したことがあった。
いつものように近寄っていくと「来る…!」と察知した嫁は、こめかみに手を当て「こめガーード!」と言った。
私 「(笑)なんて?」
嫁 「こめガード…」
私 「こめかみをガードするってこと?」
嫁 「うん」
私 「こめかみガードじゃないと分かりにくくない?」
嫁 「…」
私 「でもそれ、ずっとしとかなアカンから大変やな」
と、嫁は「こめガード」をしたままそんなやりとりをした。
しばらくして、嫁が「こめガード」を外した瞬間、
私 「『こめガード』破れたり!」
嫁 「あーやられたー!」
・・・。
その防御も万全ではなく、私によって1日にして攻略されてしまったのである。