義父母の還暦祝いだったか、嫁の姉さん夫婦と姪っ子2人、我々夫婦の8人で、四国は鳴門へ旅行に出かけたことがある。
姪っ子の希望で、イルカと触れ合えるところがあるということで、そこへも出向いた。
さすがに、海にいるイルカというわけには行かず、プールがあって、そこにイルカが泳いでいるところだ。
円形のプールで、面積としては、小学校にある設置されているプールよりひと回りほど小さいくらいじゃなかっただろうかと思う。
そこをイルカが泳いで出てきて、周りにいるお客の近くで顔を出したり、キィキィ鳴いたり、お辞儀のように顔を振ったり、ときどき、少し離れて水をかけてくるといったいたずらをしたり、といったふれあいの場だ。
「イルカさーん」
「こんちには〜」
とか言っている子供たちもいて、和やかな時間であった。
義父は、動物が苦手ということもあったのだろう、終始プールから少し離れたところで立っていた。
しかし、せっかく来たんだからということなのか、少しでも参加しようと思ったのか分からないが、口の中で舌を左右に動かすと出るような音?声?を出して「ろろろろろろろ〜」とイルカと交信しようとしていた。
娘である姉、嫁の2人からは、
「なんなんそれ?」
「イルカってそんなあやし方なん?」
「変なおっちゃんみたい」
「他人のふりしとこ」
と揶揄されていたが「ろろろろろ〜」は続く。
しばらくして、飼育員さんと思しき係りの人が、
「イルカは、私たち人間とは聞こえる周波数が違うので、私たちが話す音は残念ながら聞こえないんです〜」
とお客全体への説明として話してくれていた。
明らかに一生懸命「ろろろろろ〜」をやっている義父に対するものだったと思われるが、お構いなしで「ろろろろろ〜」は続く。
嫁たち、
「聞こえへんって言ってるのに」
「いいんじゃない、ほっとけば」
「やりたいんやったらやらしたりぃ」
義父は娘たちから何かと厳しいツッコミを受けることが多かったし、それを継承して、孫の対応も手厳しいものがあるようだ。
その土台には、愛情というか信頼関係というか、繋がりのようなものがあるのを感じるが、だからこそ、厳しい仕打ちが笑えるのだろう。
もう15年以上前の旅行のことだが「ろろろろろ〜」は今でもときどき話にあがる呪文だ。
