隠ぺい工作

だいぶん前の話だが、ふと思い出した。

うちの洗面台は、風呂に入るときの脱衣スペースの角に設置されている。

洗面台に向かって右がすぐ壁で、そこの備え付けたタオル掛けにかかっているタオルで水気を拭く。

確か、もともとタオル掛けがついていたのだが、一枚だけしか掛けられないものだったので、2人分かけられた方がいいよね、ということで、ホームセンターで買って来たものをネジで取りつけたのだったと思う。

そういう作業はだいたい私の役目なのだが、この部分はどういうわけか嫁が付け替えたのだった。

それもあってか、タオル掛けが付けられた壁には、19年前の新婚旅行へ行ったときに撮った、海の写真を引き伸ばしてプリントアウトした、A4の紙がビニールに入った状態で貼られている。

よそ様からすると、「奥様が初心を忘れないように当時の写真を飾られているのね!」と解釈される方がおられるかもしれないが、実際はそういうことではないのだ。

ある日、仕事から帰ると、タオル掛けが2人用に取り換えられていた。

私 「おー、タオル掛け付け替えしてくれたんや!よう出来たやん」

嫁 「うん。できてん」

私 「海の写真まで貼っておしゃれにして」

嫁 「うん。写真貼ってん」

そのときは、その話はそれで終わり。

そして、何日?何週間?どのくらい経ってからだったか覚えていないが、貼られている海の写真が少し剥がれそうになってきていたので、貼り直そうと思い裏側を見ると、その部分のクロスがベリベリに剥がれていたのである。

早速、嫁を呼びつけた。

私 「ここのクロスむちゃくちゃになってるやん、どないしたん?」

嫁 「うん・・・」

私 「もしかしてあれか? タオル掛け付け替えたときに剥がしてしもたんちゃうか?」

嫁 「うん」

私 「あ~あぁ」

嫁 「・・・」

私 「あ・・・!だからあのときなんか様子がおかしかったんか!」

嫁 「そう?」

私 「タオル掛け自分で付け替えたときに、いつもの感じやったら『見て見て~!』とか言いそうなもんやのに、テンションが低めやったから、なんやろなぁと思ったんや。そのときは深く考えんかったけど」

嫁 「なんか剥がれてん」

私 「隠ぺい工作やったわけや!(笑)」

だいぶん前のことだがふと思い出したので、どうしてあのとき、クロスを剥がしてしまったことを隠したのか聞いてみると、

「隠したんじゃなくて、聞かへんから言ってなかっただけ」 ということらしい。

少なくとも、新婚時代を忘れないように、という意図ではなかったのである。